若い頃、ラーメンは醤油だった。あまり外食する家ではなかったが、ラーメンを食べる機会があれば決まって醤油を選んでいた。
20代前半は濃い味を身体が求めていたのもあり、とんこつやとんこつ醤油がメインになった。
20代中盤では味の深みを感じる味噌を食べるようになった。スープを最後までおいしく飲めるのは味噌が一番だと思う。
このように私のラーメン遍歴の中では、塩ラーメンという選択肢がなかった。透明な、何も溶け込んでいないようなスープにお金を払うなんてもったいないという想いすらあった。
そんな私が1杯のラーメンをきっかけに180度、塩ラーメンに対する想いが変わってしまった。
衝撃的なウマさ!つぶ貝ラーメン。
20代後半、当時住んでいた北海道で旅行がてら立ち寄った襟裳岬で、その衝撃的な出会いはあった。
夏とはいえ、風が強く肌寒いその日、半ば震えながらお店に入った私はメニューを一瞥し、つぶ貝のラーメンとつぶ丼のセットを注文した。
正直味にはそれほど期待していなかった。よくある観光客向けレストハウスだったし、客の入りもそれほどでもなかったからだ(これは時間的なものもあるが。昼をだいぶ回ってた気がする)。
出されたそれは塩ラーメン。ふむ、と一口すすって驚いた。めちゃくちゃウマい!寒かったことやお腹が減っていたこともあろう。
だが、ほんとうにめちゃくちゃ美味しかったのだ。柔らいつぶ貝に、海苔のいい香り。そしてなにより、あっさりとしながら身体に染み渡っていくスープ。
以来つぶ貝にもハマり、主に回転寿司のネタでときどき食べているが、こういった煮付けには、なかなかお目にかかれないので非常に残念である。
タンメンとの出会い
さて、塩ラーメンに目覚めた私だが、やはりまだラーメン屋では他の味を選んでしまう。だが、この旅行中に出会ったもう一つの塩ラーメンにより、私のレパートリーの中の塩ラーメンが確固たるものになる。
旅は続き釧路に着いて、とあるラーメン屋を探すことになった。私は椎名誠さんの本が好きでよく読んでいるのだが、そこで紹介されていたお店だ。そこのお店のタンメンがウマいらしい。
恥ずかしながら私はそのときまでタンメンたるものを知らなかった。いや、次長課長の河本さんの「お前に食わせるタンメンはねぇ」というのは聞いたことあったが、タンメンというのは担々麺の別称くらいに思っていたのだ。
そしてお店入りタンメンを注文。出てきたそれは野菜たっぷりの透明なスープ。正直赤いスープで辛い系を想像していた私は、心の中で叫んでしまった。こ、これはヘルシーすぎる。
動揺を抑えつつ、一口。野菜の甘みを感じる優しい飲み心地。悪くない。一口、もう一口と食べ進み、気付けば無くなっていた。野菜が嫌いなわけではない。
だが、野菜とラーメンを一緒に食べるという概念が(長崎チャンポンは除くが)なかった私には、こちらも衝撃的な出会いであった。
以来、ラーメン屋では塩を頼むことが増えた。鶏系のスープやチャーシューには俄然塩が合うことも知った。食わず嫌いはいかんなぁ。
ちなみに、我が家の常備袋麺はサッポロ一番みそラーメンと塩ラーメンである。